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年収数億円でも「人生はクソ」?『トレーディングゲーム』が描く金融街の真実

「金融街の成功物語」といえば、高級スーツに身を包んだエリートがシャンパンを開けるシーンを想像するだろう。しかし、この本は違う。

著者のゲイリー・スティーブンソンは、オックスフォード出のエリートではない。ロンドンの労働者階級出身、ジャージ姿の数学オタクだ。そんな彼がシティバンクに入り、世界の経済エリートたちを出し抜き、「銀行で最も稼ぐトレーダー」に登り詰める。

だが、タイトルの通り、待っていたのは「クソッたれ」な人生だった。 本書は、単なる投資のノウハウ本ではない。資本主義という巨大なカジノの中で、魂をすり減らしていく青年の壮絶な手記だ。

この本の面白いところは、彼が勝ち続けた理由が「世界の不幸に賭けた」からだという点だ。

2008年のリーマンショック後、エリートたちは「経済は回復する」と信じていた。しかし、貧しい環境を知るゲイリーだけは違った。

「格差は広がり、一般庶民は金を使わなくなる。経済は回復しない」


彼はこの「長期停滞」に巨額のベットを行い、莫大な利益を上げる。 「世界が悪くなること」に賭けて金持ちになるという矛盾。画面上の数字が増えるたび、現実の世界が壊れていく様子を、彼は冷徹に見つめていた。

数百万ドルのボーナス、20代での億万長者。 しかし、描かれる日常は地獄だ。

「このゲームに『あがり』はない。死ぬまでチップを積み上げるだけだ」 そう気づいた時の絶望感が、生々しい筆致で描かれている。読んでいるこちらまで胃がキリキリするような臨場感だ。

著者は最終的に、莫大なボーナスを捨ててトレーディングフロアを去る。そして現在は、富の不平等を訴える活動家(YouTuber)となっている。

この本が突きつける問いは重い。 「君が必死に登っているその梯子(はしご)は、本当に幸せな場所に掛かっているのか?」

投資やトレードをしている人なら、チャートの向こう側にある「人間の欲望」や「歪み」を感じずにはいられないだろう。